大切な人だからこそ…掛け替えのない君だからこそ、ずっと傍にいて欲しくて。
嫌になるくらい何度だって伝えたい言葉を君に言いたいんだ。
『好き』も『愛してる』も…そして、『ありがとう』と『おめでとう』を何度でも。
『Taste of sweet-sour love -前編-』
暦の上では季節は秋。少し肌寒い筈の季節に、未だに紅葉の色を見せないこの島は
緑をより一層深い色で染めた木々が空高く聳え立っていた。
11月に入れば長袖が手放せなくなる季節になるけれど、この島はとても暖かい。
この島が…竜宮島が本格的な秋を迎えるのは、もう少し先の話になるだろう。
「総士、明日って空いてるか?」
「あぁ、空けてあるよ」
祭日でもなければ、特に何かあるわけでもない極普通の平日。
けれど、一騎と総士にとっては いつの間にか二人の記念日とでも言えるようになっていた。
きっかけは去年。総士が一騎の誕生日祝いを逃してしまったために考え出した
一騎と総士の誕生日の真ん中の日。
誰の誕生日という訳でもないけれど、否――世界のどこかでは誰かの誕生日でもあり、また
新しい生命がこの世に生を受けているかもしれないが、二人にとっての大切な日となった。
「じゃあ、明日はお弁当でも作って総士の部屋に行くから」
「え…お前、学校は?」
総士は元々 島を守るために忙しい身であり、学校にはほとんど行けなく休みがちだったが、
そうでない一騎は今の今まで無遅刻・無欠席・無早退で皆勤物だった。
学校に行きたくても行けなかった総士は、影ながらこっそり応援までしてたけれど…
「そんなの、休むに決まってんじゃん」
あっさり そう切り返してくる一騎に、総士は目が点になった。
一騎にとって総士が自分の全てで、どうやら他にはまったく興味が無いらしい。
小学校の時も一騎は皆勤賞を受賞していたけれど、何だかどうでも良さそうにしていた事を思い出し、
はぁ…と溜め息をつきながらも、心の奥では嬉しいと感じる自分も居て…。
「指令が聞いたら驚くだろうな」
「そうか?」
学校帰りにそんな会話をしながら、二人は「じゃ、また明日に」と言って帰路に着いた。
次の日の朝、一騎はいつも以上に微笑みを浮かべながら家を出た。
当然行き先は学校なんかではなく、総士がいるアルヴィス内の部屋。
その手には、一騎お手製のお弁当とひとつのカメラ。
去年は総士に驚かされたけど、今年は二人揃ってちゃんとお祝いをしたくて…。
手作りのマフラーも嬉しすぎて真夏でも首に巻きたいぐらいだったけれど、
流石にそれは総士に引き止められた。
顔を真っ赤にしながら、気恥ずかしさに必死になって。
「今日は、いっぱい撮ってやろう」
あんな風に可愛い総士 撮れるかな…などと思いながら、一騎は満面の笑みで総士の部屋へと
歩を進めて行った。
行き着いた総士の部屋は、相変わらず殺風景で何も無く、何だか寂しい気もした。
本人は何とも思っていないような素振りを見せるけれど、それが本心じゃない事ぐらい一騎には
分かっている。心の奥では、きっと自分と…みんなと思い出を作りたいと思っているに違いない。
自惚れでも何でもいい。一騎には、そう感じていたのだから。
「相変わらず、お前は凄いな」
一騎の持って来たお弁当をまじまじと見つめながら、総士は溜め息をつきながら感心していた。
一騎にとって何て事の無い普通の事でも、総士から見れば未知数極まりないのだろう。
食事と言っても、一騎はアルヴィスの食堂でしか総士が食べている所を見かけなかった。
とは言っても、見かけたのもほんの数回で、恐らくは部屋の隅に置かれている栄養剤やら
ビタミン剤やらで総士は今まで最低限の栄養を補給していたのだと思う。
「そう、かな…」
実を言うと、今日だけは特別だったりする。
普段まともに食事をしていないであろう総士の為に、一騎は一晩かけて作ったのだ。
「これも一種の才能だな」
「そんな、大袈裟だよ」
いくら総士の為に作ってきたとは言え、そんな風に煽てられると何だか気恥ずかしいもので
反対に照れるではないか。
総士の事だから、素で思った事を口に出しているだけに余計に照れくさかった。
「そんな事より、早く食べよう?」
早々にその話を切り上げ、一騎はその場を促した。
人に煽てられたり褒められたりする事に慣れていないだけに、どう対処して良いのか分からなかったのだ。
戸惑いながらも自分も箸に手をかけ、口へと運んでいく。
隣では、何だか幸せそうに頬張っている総士がいて、それだけでお腹いっぱいになりそうだった。
そんな総士を見つめながら、一騎は思い出したかのようにカメラに手をかけ、すかさずシャッターを押す。
パシャっと言う鈍い音に総士が顔をあげれば、そこには満面の笑みの一騎が何回もシャッターを切っていた。
「なっ何してるんだ、一騎!」
慌てて掌で顔を隠し、予想通りの総士の反応が一騎へと返って来る。
「何って…見ての通り、記念撮影?」
「記念って…いきなり撮るやつがあるか…っ」
「じゃあ、一言 断りいれたら撮らせてくれた?」
「………」
もともと総士はこういったものが苦手だった為に、きっと断っていても簡単には撮らせてくれない事ぐらい
一騎は百も承知だった。
だから、総士の不意をつける今を狙って撮ったのだけれど。
案の定、総士は撮る気満々の一騎に対し固まってしまっていた。
きっと今頃総士の頭の中は、どう対処して良いのか、ここはポーズをとるべきなのか、
ちゃんと笑えるのだろうか、などと言う事が渦巻いているのだろう。
「総士、そんな気を張らないで」
「いや、しかし…その……と言うか、一騎が撮らなければ良い話だろう!」
そう言って身を乗り出して一騎が持っているカメラへと手を伸ばしたけれど、
あっさりと回避されて奪い取れなかった。
そのまま行き場を失った腕は宙を舞い、バランスを崩した身体は一騎へと凭れ掛かる様にして倒れ込む。
「…今日はいつになく大胆だな、総士」
「な…!そんなんじゃないっ」
慌てて体勢を立て直そうとするが、時すでに遅し。
しっかりと一騎の腕は総士を捕らえ、あっという間に総士は動きを封じられてしまっていた。
To Be Continued
…かはっ…また続きます。
いつも長くてスミマセン(へこ)
そして、今回は微妙に(?)去年の話の続きっぽかったりします。
2005・11・8
|